中澤秀一 × 菊池仁 特別対談(2/8ページ)

菊池 首都圏のほうでは、どこが最低生計費試算調査に取り組んでいるんですか?
中澤 いま首都圏では、東京がようやく重い腰を上げて、取り組んでくれることになりました。現在、調査票を配布しているんですけど、その前は下地づくりで、なぜこの調査をやらなきゃいけないのか、意義を落とし込んでいくところでした。たとえば署名活動にしても、いきなり名前書いてねとか、デモに参加してねと言っても難しいと思うんです。だからなんでこれをやらなくてはいけないのかを丁寧に説明していくこところを、やってたんですけど、これで東京が取り組めば、いままでに取り組んだ静岡や各地の結果が生きてくるんじゃないかと思うので、そうなったときにどうなるのかが見ものですね。
菊池 いま政府は最低賃金を5%上げるべきだと言っています。
中澤 加重平均で1000円を目指すと言っていますね。
菊池 それに対して、財界の方からは「そんなことを言っても受け入れられない」「中小企業の支払能力が」なんて話が出てきています。
中澤 かならず出てきますね。
菊池 中小企業もいっしょに足並みを揃えて賃上げに取り組めるという、そういう政策を取ることがいま政府に求められているところだと思うのですが、いくら賃金を上げろと言っても支払う側としての中小企業の支払能力はどうなんでしょうか。
中澤 支払能力が実際にあるかどうかは置いておいて、日本の政府って本当に企業任せなんですよね。日本は「中小企業はがんばって賃上げしてね」って、企業努力だけに任せてきたところがあるんですけど、諸外国では「15ドル運動」などがあって、最低賃金を上げていくのが潮流になっていますけど、だいたいどこの国も中小企業の支援をやっているんですよね、ちゃんと。中小企業に対して減税するとか、社会保険料を軽減するとか、韓国だったら具体的に補助金を出すとか、そういうことをやって最低賃金を上げているのに、日本はそうしたことを何も手当していません。だから中小企業への支援策をセットにして、「政府としてこういうことをやるから最低賃金上げていきましょうね」という政策の打ち出し方が必要なんですよね。ただ上げろとか、目標を打ち上げるだけじゃなくて、きちんと「どうすればできる」というところがいままで欠けてきたところなので、労働組合としても具体的に「こういう支援策があるよ」っていうのを出せれば、さっき菊池さんがおっしゃったように、中小企業を運動に巻き込んでいけるんじゃないかなと思います。
菊池 そうですね。いま海外の話が出ましたけど、海外の最低賃金はどんな感じなのでしょうか?
中澤 たとえばアメリカだと、10年くらい前まではまだ全然でしたが、いまは最賃15ドルが主流になりつつあります。全国一律の最賃制度もあるのですが、より高い最賃を求めて、州ごとに条例で最賃15ドルを定めています。ほかのドイツやフランス、イギリスにしろ、1000円以上の金額になってきており、世界の潮流として、やっぱり最低賃金はそれくらいの金額が必要だということになっています。お隣の韓国では、文在寅政権になってから最低賃金が急速に上がっていて、おそらく実質的には日本の最低賃金を抜いています。文在寅は大統領になるときに最賃を10000ウォン(約1000円)にするという公約を掲げて、いまそれに向けて急速に最賃が上げられているという状況で、日本はちょっと取り残されているというか、いまだに3%ずつ上げてますが、加重平均でいうと874円なので、全然1000円に届かない水準に留まっています。
菊池 海外で最賃が引き上げられている過程というのは、政治が主導したものなのでしょうか、それとも労働者の運動が先行してあったのでしょうか?
中澤 どちらが先かというのは、色々な力関係もあってはっきりとは言えませんが、やっぱり労働者の運動があったことは確かです。アメリカでは「FIGHT FOR FIFTEEN」(15ドル運動)という有名な運動があって、それが最賃引き上げの原動力になっています。やっぱりアメリカにしても韓国にしても、労働者側から「この賃金では生活できない」「いまの最低賃金低すぎるよね」の声が上がり、最低賃金というものが国民みんなの共通の問題意識になっていった過程があり、それが政治に反映されて、政治家もそれを公約に入れていかないと自分たちが当選できないという状況になっていくなど、運動ありきの最低賃金の引き上げと言えると思います。
菊池 自分たちが生活していくうえでこのラインが必要なんだという、それをきちんと示して、うったえていくのが大事なんでしょうね。
中澤 それは本当に大事なことで、そこを疎かにしてしまうと、ただスローガンを掲げているだけでは、誰にも聞いてもらえないんじゃないかなと思います。
菊池 ただ待っていても駄目だということですね。
中澤 本当にそうだと思います。やっぱり運動して勝ち取っていくというのが大事で、いままでの政策でも運動で勝ち取ってきたものがあると思うので、今回の最低賃金も運動でどれだけ勝ち取れるかというのがすごく大事になってくるので、もっと運動をつくっていけたらいいなと、個人的にも思っているところです。
菊池 ありがとうございます。

 

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最低賃金の問題は労働時間の問題と表裏一体

 

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