中野晃一インタビュー(4/4ページ)

 最後の質問です。わたしたち自治体労働者含めて公務労働者は、憲法のなかでは「一部の奉仕者ではなく全体の奉仕者」という規定がされています。
この間非常に印象深かったのは、ハイテン米戦略軍司令官が「トランプ大統領が核攻撃を命令しても、それが法令に則っていなければ拒否できる」と発言したことです。法体系としては、日本の憲法・公務員法も同じような原理なのかなという風に思っています。
しかし日本のなかではそうではなく、「忖度する」という、忖度のためには書類を捨ててしまうという行政がまかり通っているのかなという風に思います。
わたしたちはいつも「住民に顔を向けて仕事する公務員にならなければいけない」ということをうったえているのですが、戦争する国のなかで、例えば上意下達の成果主義的な――本来そんな必要がないんじゃないかと思うくらいの――成果主義の体系であるとか、あるいは国家公務員の内閣人事局のような、中央集権的に人事を統制するようなものが出てきていて、非常に職場では上の者に物が言えないという状況があると思います。
この状況を踏まえて、ぜひ自治体労働者にメッセージをいただければと思います。

中野 そうですね。やっぱり新自由主義的な政治改革・行政改革というものが、かれこれ四半世紀以上つづいてきて――もちろん急激に変わったときと、比較的緩やかだったときとあると思うんですけれども――本当に長いことかけて、いろいろと蝕まれてきたところがあると思うんです。

当初は政官業の癒着なんてことが盛んに言われたように――典型的には高級官僚の天下りだったりとか、あるいは政治家との関係だったりとかですね――倫理規範の問題なんかも含めて、一部の特権的な地位にあるかなり政治家した官僚たちの動きということだったり、あるいは予算とのからみにおいての利権だったりというようなことで問題があったのだと思うんです。
しかし、ある意味そこを突破口にして、全体として時の政府がいいように――とりわけ総理大臣、あるいは地方でいえば首長が――かなり独裁的な体制をつくって、公務員を意のままに使うということが民主主義だというようなすり替えがなされてきてしまいました。その行き着いた先というのが、森友・加計学園のような、まったく違ったかたちの政官業の癒着なんだと思います。
言ってみれば、今度はもっとより本格的に国家や行政機構を私物化して、歪めてしまっている状況が生まれてきているのだと思います。政官業の癒着ということでいうと、どちらかと言えば公務員バッシングに使われてきたようなところがあるのですが、いま実態としてみれば、公務員がまさにそこできちんと踏みとどまることが、これ以上特権的な地位にある政治家や一部の政治化した官僚が行政を歪めたりすることに対して立ち向かうということができるかどうかという問題になっているのだと思うんです。

そのときにやっぱり大事なのは、こうしたような政治や行政の変化ということと、立憲主義が壊されてきていることは表裏一体のこと――同じことなわけですよね。
つまり何かと言ったら、法の支配というものを担保する存在として本来公務員がいるというのが、ウェーバー的な公務員の役割ということなんだと思うのですが、そういった意味では、いくらそのときたまたま選挙に勝った人が権力の座にあるからといって、その人が好きなように変えていいということではない。やはり行政の公平性があるだとか、あるいは法の手続きに則って、より全体に奉仕するためにルールが決まっているんだというようなことに踏みとどまることができるかどうかということが、職業倫理の問題としてやっぱりあるだろうということです。

もちろん、これだけ権力が集中していって、本当に暴君みたいになってしまったような首長が出てきたりだとか、あるいは風穴を開けるとか、ぶち壊すというようなことがリーダーシップという風に履き違えているというようなことが、地方においても残念ながらいろいろなところでみられる状況にあって、難しい状況ではあるのですが、やっぱりより多くの住民や国民と連帯するかたちで公共空間を守るということ、そのことは本当にこれまでに増して非常に重要な局面にきていて、そういった意味ではやっぱり公務員の方々が住民とともにあるということ、それを多くの住民にわかってもらうということが、非常に重要になってくるのかなという風に思うんです。
そうでないと、向こう側――とにかく小選挙区制と同じで首長選挙もそうなんですけど、最終最後は一人が勝つので、要は相対多数であればいいだけですから、決して過半数だったりとか、ましてや住民全員を代表しているわけではないかもしれない。だからこそ、勝ったらならばもちろん首長さんだって公務員なわけですから、全体の奉仕者であるべきにもかかわらず、必ずしもそうしていない場合があるいうことで、そういった意味では、戦後スタートした全体の奉仕者としての公務員のあり方ということについて、より広い理解を得るということ、そのなかでやっぱり踏みとどまっていくということが非常に期待されるし、それこそが民主主義を守っていくことにつながるんだろうと思っています。

 本当にあたたかいメッセージをありがとうございます。
わたしたちとしても住民とともにいる公務員として、運動をすすめていく所存です。それと同時に、やっぱりいまの立憲主義を外れた状況を変えていく意味でも、市民連合といっしょに野党共闘をすすめていきたいと思います。
今日は本当にありがとうございました。

中野 ありがとうございました。がんばりましょう。

 

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